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麻にはたくさんの種類があります

「麻」という名称は日本独自のもので本来は大麻を指していましたが、現在は植物から採れる繊維を総称して「麻」と呼んでいます。
国際的には、リネン(亜麻)、ラミー(苧麻)、ヘンプ(大麻)、ジュート(黄麻)、マニラ麻(アバカ)、サイザル麻(ヘネケン)など、それぞれの名称で呼ばれています。
現在、日本で「麻」と表記できるのはリネンとラミーに限られ、そのほかは植物繊維と表記されます。

ソフトで毛羽立ちが少なく、しなやかな風合い

リネンの原料はフラックスという植物で、フランス、ベルギー、オランダなどヨーロッパを中心に栽培されています。寒冷の土地でしか生育せず、日本では札幌以北で育てることができます。 一般に麻は表面がザラザラ、チクチクとした肌への刺激を想像されますが、リネンはソフトでしなやかな風合いで、ラミーに比べると毛羽立ちが少ないのが特徴です。そのため、キッチン、バス、ベッドまわりの衛生用品に多く用いられ、ヨーロッパでは下着に使われたことから、一説にはランジェリー(Lingerie)の語源はリネン(Linen)だと言われています。

人類最古の繊維

リネン(亜麻)は人類最古の繊維と言われ、古代エジプトではミイラを包む布に使われました。その後、中世ヨーロッパではテーブルリネンやベッドリネンなど、生活のあらゆる場面に使われるようになり、その文化は今日まで受け継がれています。日本に初めてリネンがもたらされたのは明治7年(1874年)のことで、露駐大使であった榎本武楊が北海道開拓使長官の黒田清隆へフラックス(リネンの原草)の種子を送り、札幌で栽培させたとの史実が残っています。

 
ハリ・コシがあり、白く絹のような光沢

原草となる苧麻ちょま(カラムシとも言われます)は、多年生の植物で高温多湿を好みます。寒さに弱く霜が降りると枯れることがありますが、翌春には新しい芽が出てきます。 国内最古の書物である『日本書記』には苧麻が衣料に使われたという記述があります。
しかし、現在は日本国内での栽培はほとんどされておらず、中国、フィリピン、ブラジルが主な産地となっています。

 

天然繊維では最も強く、ハリ、コシがあるのが特徴で、色が白く絹のような光沢があります。
しかし、ラミー糸は毛羽立ちが多く絡まりやすくて切れやすい性質がありそのままでは織りにくいため、特に経糸に使用する場合は糊付け加工が欠かせません。

「近江ちぢみ」の原料

麻は全般に乾燥すると織りが困難になるので、麻織物には湿潤な土地が適します。 滋賀県湖東地域は琵琶湖からの豊富な湿気により麻織物に適する環境であったため、麻の一大産地になったと考えられます。そしてラミーを原料に作られた「近江ちぢみ」は、「近江の麻」とともに地域団体商標に登録されました。

日本の歴史に深い関わりのある大麻(おおあさ)

ヘンプの原草である大麻は、陶酔成分があることからマリファナなど麻薬に使われる悪いイメージがありますが、実は日本と大麻は歴史的に深い関わりがあります。 日本には元々大麻が自生しており、縄文早期には生活に使われていたことが福井遺跡の出土品から確認されています。神道では、大麻は神聖な植物とされ、お祓いに使用される神具「大麻(おおぬさ)」や、伊勢神宮のお札「神宮大麻(じんぐうたいま)」などに用いられました。 また、日本の伝統柄「麻の葉柄」は大麻の葉がモチーフになっており、背丈が大きく成長が早い大麻の性質から、子供の成長を願う縁起物として古くから人々に愛されてきました。

 
近年ではエコの観点から見直されつつあります

ところが、現在は大麻取締法による規制のため日本国内での取り扱いはほとんどなく、麻織物の多くはリネンまたはラミーが主流になっています。 しかし近年、人々の健康志向の高まりや地球の環境保護の観点から有効な植物として、大麻が見直されつつあります。 大麻は、極端な温度変化を伴う土地(南極、北極、湿地帯など)以外は栽培が可能です。少量の水で育つため痩せた土地でも栽培でき、成長が早く丈夫で、農薬や化学肥料も必要ありません。

新たな実用性

古代エジプトでは鎮痛剤として使用された記録があり、現在、その有効性が認められ、欧米では抗がん剤等の副作用を緩和する目的の医療用大麻として用いられています。また、茎の繊維は衣料、紙、建材、プラスチックの原料などに、種は食品、化粧品、バイオ燃料などに利用でき、石油に変わる新たな資源として注目されています。このようなことから、海外では一部地域で大麻の栽培・使用が解禁になり、日本でも寺社を中心に大麻文化を復活させようという動きが出ています。